インフレータブル構造とは何ぞや
この記事は航空宇宙工学科・航空宇宙工学専攻2019のアドベントカレンダー13日目の記事です.
航空宇宙のアドベントカレンダーを書くのも最後になるので自分の研究に(少しだけ)関連した構造について紹介します.
インフレータブル構造とは
定義
インフレータブル構造とは展開可能構造物の一種です.
そもそも展開可能構造とは?という話になりますが 展開可能構造物とは収納形状から伸展形状へと自身の形状を変化させることができる構造のことを言います.衛星に搭載される展開可能な太陽光パネルもこの構造に含まれます.
構造を宇宙へ持っていくためには衛星の容量・ペイロードが決まっているためその要求を満たすこと,そして確実に展開することが必要です(収納性・軽量性・信頼性).そのためこうした要求,特に収納性と軽量性を満たすのに展開可能構造が採用されてきました.
では,インフレータブル構造とは?
JAXA [1]のホームページの文章から引用すると次のようになります.
インフレータブルとは「膨張できる」という意味です。膜面を内圧ガスで膨らませた空気膜構造物としてのインフレータブル構造物は,地上建築物としてすでに長い歴史を持っています。1970年の「大阪万国博覧会」では多数の空気膜構造物パビリオンが出現しました。また,最近では東京ドームがよく知られています。空気膜構造物の特徴は,大空間が作れる,建造工期が短い,低コスト,地震に強いなどですが,これらの特徴は宇宙構造物にも適していると考えられます。
まとめると,「収納した状態からガスで膨らませた後,その形状を保持できる構造」ということができます.数ある展開構造の中でもインフレータブル構造は特に収納性の点で優れた構造になっています.
歴史
インフレータブル構造の歴史は1950年代まで遡ります.宇宙で初めて実証実験がされたのは1960年のEcho Balloon [3]であり,1996年にはインフレータブル反射鏡の展開実験(Inflatable Antenna Experiment)[4] ,2012年にはインフレータブルチューブ(円筒型のインフレータブル構造)をアクチュエータとして使用するSPace INflatable Actuated Rod (SPINAR)の展開実験も行われました [5].
月面の簡易住居などの提案もされてきました [6](提案だけ).
インフレータブル構造の問題点
これだけ聞くと将来有望いいことづくめの構造に見えますが,どんな構造にも欠点があるようにインフレータブル構造にも色々な問題点を抱えています.例を挙げると
- 展開のガスが容量をとること
- 長期使用のためには硬化が必須であること
- 展開時に意図通りの展開をしないこと
といったことです.特に3番目の展開挙動の不安定性は実用化に大きな障害となっています.これはインフレータブル構造の収納形状(折りたたみ方)の違いやガスの通り方によってインフレータブル構造の展開の仕方が変化してしまうためです.
この問題の解決のため,「折りたたみ方による展開挙動への影響」がいろいろと研究されてきました. ここでは折りたたみ方に焦点を当てて説明します.
インフレータブル構造の研究ー折りたたみ方
インフレータブル構造の折りたたみ方は3つに大別されます.
- Zigzag
- Roll
- Origami
Zigzag折り
Zigzag折りは一番簡単な折りたたみ方です.インフレータブル構造をジグザグと折っていけば完成です.これは折り目以外に変形が生じない,作り方が簡単という利点がありますが,展開の際には一つ一つの折り目を空気が通っていかなければならないため空気が滞りやすくなるという欠点があります.この折り方は本質的に不安定であるという報告もされているくらいです.ただ,Zigzag折りを展開しやすくする改良の折り方も提案されています.
Roll折り
くるくるとロール状に丸めて収納するのがこの折りたたみ方です.これは折り方が単純なだけでなく,折り目が生じない(局所的には存在する)ため,展開が予測しやすいという利点があります.ただ,ガスの通気性が悪いこと,構造の両端の一方がロール状内部にあるため他の部材との接続性が悪いという欠点があります.
Origami折り
Origami折りは蛇腹・筒の形状から平面形状へと折り畳めることができる折りたたみ方です.これは図のように色々なパターンが考えられます.Origamiパターンの利点はその通気性の良さです.折りたたんだ時にでも図のように中心部分に空間ができるため,ガスが非常に通りやすくなります.ただし,例にもれずこの折り方にも欠点があり,折り方が複雑であることに加え,展開中の材料の変形が問題となっています.
実は平面に折りたたむことができる筒状の折り紙は,一般的に収納・展開で折り目以外の部分に変形が生じることがわかっています.これは有名(?)なMiura折りでも同様で,Miura折りを筒状にしたらその構造は展開中に変形してしまいます.
折り目にしか変形が生じない筒状の折り紙構造も開発されているのですが,最終形状はガタガタした蛇腹状になるという条件付きであり,きれいな円筒形部材にしようとすると結局変形が生じてしまいます.
以上のように色々な折り方は研究されているものの,どの折り方にも欠点はあり,「確実な」展開というものは保証されていないのが現状です.また,各折り方が展開中にどのような変形を生じるかいうことはほとんど研究されていません.というのは「Origamiの折り方」の研究は理論的に議論されることが多く,工学的な解析はほとんどなされないからです(しているものもありますが結構お粗末なものであり,理論屋からみた工学屋の数学的な議論もこんな風に粗末に見えているんだろうな~と思いながら論文を見ています).
Zigzag折り,Roll折りについては様々な手法で挙動の解析が行われてきましたが,同様に上記の目標は達成されていません.また,折り目の影響を入れた解析はほとんどされていないのが実情です.
まとめ
- インフレータブル構造とは展開可能構造物の一種で,収納した状態からガスで膨らませた後,その形状を保持できる.
- 収納性・軽量性に優れており宇宙利用に期待ができるが,一方で展開挙動の不安定性という問題を抱えている.
- 折り方やその展開について様々な研究がされているが依然としてブレイクスルーはない.
蛇足
インフレータブル構造に関連した研究として
- 折り目の影響を入れた解析手法の構築(そもそも折り目(塑性)の研究が少ない)
- 筒型Origamiの展開中の材料の変形解析や,数あるOrigamiパターンを工学的観点から分類できる手法
などができれば博士課程を(恐らく)とれると思うのでぜひともB3の方,構造の研究室にどうでしょう.
参考文献
- 宇宙科学の最前線:宇宙インフレータブル構造物, JAXA http://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2006/higuchi/ アクセス日:2019/12/06
- Griffith, D. T., and Main, J. A., “Structural Modeling of Inflated FoamRigidized Aerospace Structures,” Journal of Aerospace Engineering, Vol. 13, No. 2, 2000, pp. 37–46.
- Project Echo, NASA https://www.nasa.gov/centers/langley/about/project-echo.html アクセス日:2019/12/06
- IAE - eoPortal Directory https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/i/iae アクセス日:2019/12/06
- Higuchi, K., Ogi, Y., Watanabe, K., and Watanabe, A., "Verification of Practical Use of an Inflatable Structure in Space," Transactions of the Japan Society for Aeronautical and Space Sciences, Space Technology Japan, Vol. 7 No. 26, July 2009, pp. 7-11.
- Cadogan, D., Stein, J., and Grahne, M., "Inflatable Composite Habitat Structures for Lunar and Mars Exploration," Acta Astronautica, Vol. 44, Nos. 7-12, 1999, pp. 399-406.
- Schenk, M., Viquerat, A. D, Seffen, K. A., and Guest, S. D., "Review of Inflatable Booms for Deployable Space Structures: Packing and Rigidization," Journal of Spacecraft and Rockets, Vol. 51, No. 3, 2014, pp. 762-778. (本ブログで全般的に参考)