狼に埋もれる

advent calendarではじめたものの

大学3年初期に知っておきたかった弾性力学のこと 1

はじめに

始めてブログを書くにあたって,とりあえずみんな知ってそうなもので少しは役立ちそうなものがいいなと思ったので弾性力学のことについてつらつらと書こうかなと思います.

材料力学と弾性力学との違い

正確な定義がわからないのですが,弾性力学は応力とひずみ間に線形関係が成り立つ物体の解析のための学問,材料力学は弾性力学の内容を現実の構造物設計で簡単に扱うために抜粋したものという印象があります.高校物理と大学1年時の物理といった関係に似たような感じがします.

大学3年時の弾性力学

大学3年時の弾性力学の授業は3回目くらいから「写経→よく分からない→写経→休憩でスマホ」のループに入り,過去問を何となく解いて何となく試験を終えてつまり弾性力学は何だったんだろう??となる人が大半だと思います.僕がそうだったのでみんなそうだと勝手に思ってます.今もそうですが,何も分からなかった状態が少しは何となくわかった気になる状態になったので3年時にこういう背景知っておけば多少理解できたのかもしれない(聞いてなかっただけで言っていたのかもしれない)といった内容を書いていきます.

誰向けの記事か

弾性力学を履修したが僕と同じ状態に陥った大学3年生あるいは4年生向け.記事も履修していることを前提とした書き方となっているため定義などあまり詳しく書いてないです.ただこの記事を読みそうな人は同学科同学年の某試験を経て弾性力学への理解が多少深まった4年生の少数くらいしかいなさそうです.

つまるところ

誰の役にも立たない備忘録です.

目的

・弾性力学講義1~3章で何言ってるのかなんとなく知る.

・材料力学と弾性力学がなんとなく結びつかないことの解決.

結論

何が言いたいかというとこの図だけです.

f:id:y-d-spast-impe1:20171222011128p:plain
弾性方程式まとめ
この関係で応力,ひずみ,変位が求まるねという話.

弾性力学(1~3章)

1章:応力の解析,2章:ひずみの解析,3章:応力ひずみ関係式と弾性方程式について扱います.

応力と平衡方程式

応力の定義

応力ベクトルとは,外力作用のもと平衡状態にある物体をある面で切断したとき,その面のうち微小面積要素に働く内力のことをいいます. 面に垂直方向成分を垂直応力 \sigma,平行方向成分を剪断応力 \tauといいます.

ある点における応力状態は


\begin{bmatrix}
σ_x & τ_{yx} & τ_{zx} \\\ 
τ_{xy} & σ_y & τ_{zy} \\\
τ_{xz} & τ_{yz} & σ_z
\end{bmatrix}

と9つの成分で(応力テンソル)表されます(テンソルの説明は省略).ここで  τ_{yx}= τ_{xy},  τ_{zx}= τ_{xz},  τ_{zy}= τ_{yz}が微小要素のモーメントの釣り合いから導けるため結局6つの成分がわかればその点の応力状態がわかるということになります.

平衡方程式

微小要素の釣り合いを考えることで  x, y, z 軸方向に対して以下の3式が導けます.

 \frac{\partial σ_x}{\partial x} + \frac{\partial τ_{yx}}{\partial y} + \frac{\partial τ_{zx}}{\partial z} + X = 0

 \frac{\partial τ_{xy}}{\partial x} + \frac{\partial σ_{y}}{\partial y} + \frac{\partial τ_{zy}}{\partial z} + Y = 0

 \frac{\partial τ_{xz}}{\partial x} + \frac{\partial τ_{yz}}{\partial y} + \frac{\partial σ_{z}}{\partial z} + Z = 0

 X, Y, Z は単位体積当たりの物体力(重力のように物体内部に直接作用する外力)です. 未知数の応力成分6に対して式は3つなのでこれだけでは応力は求まりません.なので変形などを考える必要があります.

ひずみと変位表示式と適合条件式

ひずみの定義(変位表示式)

ひずみは垂直ひずみ \epsilonと剪断ひずみ\gammaがあり,垂直ひずみはある点と軸方向にある近傍点の変形量をもとの長さで乗じた値,剪断ひずみはある点と2軸方向の近傍2点(ある点中心になす角90°)の角度変化量で定義され, x, y, z軸方向の変位を u, v, wと置くと,微小変形の場合

 \epsilon_x = \frac{\partial u}{\partial x}

 \epsilon_y = \frac{\partial v}{\partial y}

 \epsilon_z = \frac{\partial w}{\partial z}

 \gamma_{xy}= \gamma_{yx}= \frac{\partial v}{\partial x} +\frac{\partial u}{\partial y}

 \gamma_{yz}= \gamma_{zy}= \frac{\partial w}{\partial y} +\frac{\partial v}{\partial z}

 \gamma_{zx}= \gamma_{xz}= \frac{\partial u}{\partial z} +\frac{\partial w}{\partial x}

で表されます.これを変位表示式といいます.

ひずみの成分もテンソル表記で


\begin{bmatrix}
\epsilon_x &  \frac{1}{2}\gamma_{xy} &   \frac{1}{2}\gamma_{zx} \\\ 
 \frac{1}{2} \gamma_{xy} & \epsilon_y &   \frac{1}{2}\gamma_{yz} \\\
  \frac{1}{2}\gamma_{zx} &   \frac{1}{2}\gamma_{yz} & \epsilon_z
\end{bmatrix}

と未知数6個で表されます. \frac{1}{2}がついてるのはごちゃごちゃ計算するとそうなるのでそういうものとしといて下さい.

変位の未知数3個と合わせると未知数は9個,対して定義から導かれる変位表示式は6つとまた式が3つ足りない状態になっています.なのでまだ別の式を考えないとなりません.

適合条件式

式が足りない問題の前に,先の6つの方程式に着目すると,たとえばある点でのひずみ成分6つが定まった時には変位は u, v, wと1通り(1価の変位)に定まるはずですが,3つの変位 u, v, wに対して方程式が6つあるため,積分により変位を求めようとすると一般的には一価に変位を求めることができません.なので,一価の変位を得るために6つのひずみが満たさなければならない必要十分条件(適合条件式)を考える必要があります.

これも詳細は省略しますが,ある点と近傍点との相対変位と偏微分の順序交換を考えることで以下の必要十分条件(適合条件式)が導かれます.

  \frac{\partial^2 \epsilon_x}{\partial y^2} + \frac{\partial^2 \epsilon_y}{\partial x^2}  = \frac{\partial^2 \gamma_{xy}}{\partial x \partial y}

  \frac{\partial^2 \epsilon_y}{\partial z^2} + \frac{\partial^2 \epsilon_z}{\partial y^2}  = \frac{\partial^2 \gamma_{yz}}{\partial y \partial z}

  \frac{\partial^2 \epsilon_z}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 \epsilon_x}{\partial z^2}  = \frac{\partial^2 \gamma_{zx}}{\partial z \partial x}

  2\frac{\partial^2 \epsilon_x}{\partial y \partial z}  = \frac{\partial }{\partial x}( -\frac{\partial \gamma_{yz}}{ \partial x} +\frac{\partial \gamma_{zx}}{ \partial y} + \frac{\partial \gamma_{xy}}{ \partial z}  )

  2\frac{\partial^2 \epsilon_y}{\partial z \partial x}  = \frac{\partial }{\partial y}( \frac{\partial \gamma_{yz}}{ \partial x} -\frac{\partial \gamma_{zx}}{ \partial y} + \frac{\partial \gamma_{xy}}{ \partial z}  )

  2\frac{\partial^2 \epsilon_z}{\partial x \partial y}  = \frac{\partial }{\partial z}( \frac{\partial \gamma_{yz}}{ \partial x} +\frac{\partial \gamma_{zx}}{ \partial y} - \frac{\partial \gamma_{xy}}{ \partial z}  )

構成方程式(応力ひずみ関係式)

足りない式を補うために応力テンソルとひずみテンソルを結びつける方程式を考えます.応力成分6つとひずみ成分6つが線形関係にあるとする(線形弾性体)と,一般的に次のような線形関係式で表されます.


\begin{bmatrix}
\sigma_x \\\ \sigma_y \\\ \sigma_z \\\ 
\tau_{yz} \\\ \tau_{zx} \\\ \tau_{xy}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
c_{11} & c_{12} & c_{13} &c_{14} & c_{15} & c_{16}\\\ 
c_{21} & c_{22} & c_{23} &c_{24} & c_{25} & c_{26}\\\ 
c_{31} & c_{32} & c_{33} &c_{34} & c_{35} & c_{36}\\\ 
c_{41} & c_{42} & c_{43} &c_{44} & c_{45} & c_{46}\\\ 
c_{51} & c_{52} & c_{53} &c_{54} & c_{55} & c_{56}\\\ 
c_{61} & c_{62} & c_{63} &c_{64} & c_{65} & c_{66}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\epsilon_x \\\ \epsilon_y \\\ \epsilon_z \\\ 
\gamma_{yz} \\\ \gamma_{zx} \\\ \gamma_{xy}
\end{bmatrix}

c_{ij}は定数で,熱弾性は考慮していません.またまた導出を省略すると  \frac{\partial \sigma_x}{\epsilon_y} = \frac{\partial \sigma_y}{\epsilon_x}などが成り立つため,実際は


\begin{bmatrix}
\sigma_x \\\ \sigma_y \\\ \sigma_z \\\ 
\tau_{yz} \\\ \tau_{zx} \\\ \tau_{xy}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
c_{11} & c_{12} & c_{13} &c_{14} & c_{15} & c_{16}\\\ 
 & c_{22} & c_{23} &c_{24} & c_{25} & c_{26}\\\ 
 &  & c_{33} &c_{34} & c_{35} & c_{36}\\\ 
 &  &  &c_{44} & c_{45} & c_{46}\\\ 
 & & & &  c_{55} & c_{56}\\\ 
\rm{sym} & & & & &  c_{66}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\epsilon_x \\\ \epsilon_y \\\ \epsilon_z \\\ 
\gamma_{yz} \\\ \gamma_{zx} \\\ \gamma_{xy}
\end{bmatrix}

と21個の定数で表せます. 軸まわりに180°回転しても性質が変わらないなどの条件を付加していくと定数の数がどんどん減っていき,弾性特性が各点でどの方向にも変わらないという等方性の場合


\begin{bmatrix}
\sigma_x \\\ \sigma_y \\\ \sigma_z \\\ 
\tau_{yz} \\\ \tau_{zx} \\\ \tau_{xy}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
c_{11} & c_{12} & c_{12} & 0 & 0  & 0\\\ 
 & c_{11} & c_{12} &0 &0 & 0\\\ 
 &  & c_{11} &0&0&0 \\\ 
 &  &  &\frac{c_{11}- c_{12}}{2} & 0& 0\\\ 
 & & & & \frac{c_{11}- c_{12}}{2}& 0\\\ 
\rm{sym} & & & & & \frac{c_{11}- c_{12}}{2}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\epsilon_x \\\ \epsilon_y \\\ \epsilon_z \\\ 
\gamma_{yz} \\\ \gamma_{zx} \\\ \gamma_{xy}
\end{bmatrix}

でと2つの定数のみで表されます.実用弾性定数としてヤング率 E,剪断弾性係数 Gポアソン \nuの3つを導入し,これらを用いて2つの定数を表すと


\begin{bmatrix}
\epsilon_x \\\ \epsilon_y \\\ \epsilon_z \\\ 
\gamma_{yz} \\\ \gamma_{zx} \\\ \gamma_{xy}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
\frac{1}{E} & -\frac{\nu}{E} & -\frac{\nu}{E} & 0 & 0  & 0\\\ 
 & \frac{1}{E} & -\frac{\nu}{E} &0 &0 & 0\\\ 
 &  & \frac{1}{E} &0&0&0 \\\ 
 &  &  &\frac{1}{G} & 0& 0\\\ 
 & & & & \frac{1}{G}& 0\\\ 
\rm{sym} & & & & & \frac{1}{G}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\sigma_x \\\ \sigma_y \\\ \sigma_z \\\ 
\tau_{yz} \\\ \tau_{zx} \\\ \tau_{xy}
\end{bmatrix}

(但し  E=2(1+\nu)G

と表すことができます(表記をわかりやすくするために定数 c_{ij}の行列が逆行列になっていることに注意). ポアソン比などを考慮せず1次元のみで考えると \sigma =E \epsilon \tau = G \gammaなどと材料力学でよくみた式が出てくることがわかります.

これで応力とひずみを関係づける6つの式が導出されました. 応力とひずみの節で足りない式の数は6式だったので,これで理論上すべての未知数が求められることになります.これらの式に境界条件を与えることで,唯一解が求められます.

再度結論

弾性力学1~3章でやったこと:材料力学で出てきた応力,ひずみの厳密な定義とそれらの成分を求めるための関係式を考えた.

つまるところ次のような関係性があるわけです(図の数字は式,あるいは未知数の数を表している).未知数として応力とひずみと変位の15個があり,応力と力を結びつける平衡方程式,ひずみと変位(変位表示式)を結びつける適合条件式,応力とひずみを結びつける構成方程式の3つの式と境界条件により未知数が求まる.これらの式を弾性問題の基礎方程式,すなわち弾性方程式といいます.

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弾性方程式まとめ
流れとしては,外力作用のもと平衡状態にある物体の

・応力成分(6個)求めたい

・平衡方程式(3式)

・3式足りない

・一方ひずみと変位も求めたい(9個)

・変位表示式(適合条件式)(6式)

・計6式足りない

・応力とひずみの関係式を考える(6式)

・無事方程式と未知数の数が一致

・理論上は解ける

という感じでしょうか.

ちなみに変位表示式と適合条件式のうち,変位表示式を用いると応力を変位で表した基礎方程式が導かれ,適合条件式を用いると変位を応力で表した基礎方程式が導かれます.変位を求めたいなら前者,応力を求めたいなら後者を用いるとよいでしょう.

理論上は解けると書きましたが,一般的に3次元弾性問題は厳密に解を求めるのが困難であり,平面ひずみ(2次元)の問題や,板厚を薄くすることで近似的に2次元問題にする薄い板や殻の問題に落とし込むと比較的容易に厳禁解が求まります.なのでこの関係性を学んだあと平面問題,板の問題と学んでいくわけですね.

材料力学との対応例

材料力学ではポアソン比の概念は出てきますが,基本的に梁を1次元問題として考えています(梁がある方向に伸びたとき別方面の縮みは考慮していない).弾性力学との対応を考えて解こうとすると以下のようになります.

例としていかにもパワポで作成した長さLの梁を外力Fで引っ張った時の端の変位\deltaを求めることを考えます.断面積はAです.

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1次元梁問題

材料力学をやっていればすぐに\sigma=\frac{F}{A}\epsilon = \frac{\delta}{L}\sigma=E \epsilonから\delta = \frac{FL}{AE}と求められますが,今回は弾性力学に対応させて解いていきます.

1次元のみしか考えないため 微小要素の釣り合いを考えた平衡方程式は

 \frac{\partial σ_x}{\partial x}+ X = 0

となり,X=0として積分してσ_x=CCは定数).境界条件より端でσ_{x (\rm x =L)}=\frac{F}{A}なのでC=\frac{F}{A},すなわちσ_x=\frac{F}{A}

変位表示式は

 \epsilon_x = \frac{\partial u}{\partial x}

であり,構成方程式

 \sigma_x =E \epsilon_x

に代入して \sigma_x =E \frac{\partial u}{\partial x}.さらに\sigma_x=\frac{F}{A}を代入して \frac{F}{A} =E \frac{\partial u}{\partial x}

両辺 x積分して \frac{Fx}{A} =E  u+ DDは定数).境界条件より壁で  u_{ \rm{x =0}}=0 なのでD=0.よって  \frac{Fx}{A} =Eu. これにx=Lを代入すれば

 \delta=u_{\rm{x=L}} = \frac{FL}{AE}

と解が求まります. (どうでもいいですけど初修のときひずみ0と変位0が混同しますよね(僕だけかも).壁で変位0だからといってひずみが0というわけではないですのでご注意を.)

かなりまどろっこしい解き方ですが,ひずみは変位の偏微分,構成方程式は微小要素を考えた際の釣り合いから導かれるもの,の2点くらい知っておけば材料力学でも棒に自重が働く場合や断面積が可変などの問題で少し役立つかもしれませんね(立たない?).

続きは未定です.

文献

小林繁夫,近藤恭平 ”工学基礎講座7 弾性力学“ 培風館(1987),ISBN978-4-563-03252-4