狼に埋もれる

advent calendarではじめたものの

大学3年初期に知っておきたかった弾性力学のこと 2

本記事は「東京大学航空宇宙工学科/専攻 Advent Calendar 2018」 19日目の記事です.

はじめに

1年ぶりとなっておりますが前回の記事の続きものです.

今年のAdvent Calendarは学術的なことが多いことに自分も感化され,研究内容のことや今勉強してる連続体損傷の話やらで書けたらいいなと思っていたのですが,あれよあれよと締め切りになってしまったので大人しく去年の続きをつらつらと書こうと思います.

どういう記事か

前回の記事同様,授業で扱った弾性力学について,こういうことを初修時に知っていれば体系的に理解できたな,ということを書いています.

誰向けの記事か

  • 弾性力学を履修したが何もわからず終わった大学3年生(あるいは4年生)
  • 前回の記事を読んだ方

誰向けでない記事か

  • 数学的な証明を逐一追いたい方(厳密な証明は教科書を読もう)
  • 弾性力学のテストのための問題を解くテクニックが知りたい方
  • 弾性力学が何となくわかっている方(知っていることだけがこの記事で書かれているので時間の無駄だと思います)

目的

  • 弾性力学講義4~5章で導出する原理・定理を1~3章の式と結びつけて何をしているのかを何となく知る.
  • 特に各原理が1~3章の式のどこを満たしていてどこを満たしていないで導き出されたものかを知る.

手段

  • 仮想仕事の原理
  • 補仮想仕事の原理
  • ポテンシャルエネルギ最小の定理
  • コンプリメンタリエネルギ最小の定理
  • エアリの応力関数

について,1~3章で導出した各式とどのような関係で導出されているかを図示の元説明する.

弾性力学(4~5章)

4章:弾性力学の諸定理,5章:2次元弾性問題(Airyの応力関数)について扱います.

前提

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前回の記事の図を少し変えたものを用意しました(適合条件式と変位表示式を一緒にしたもの).これは1~3章で導出した式とその関係性について図示したものです.

以下,上図の各式は(a)~(e)で呼ぶことにします.

この先の内容もこの図で説明していくのでなんのこっちゃという方は前回の記事 kksn-kgsn.hatenablog.com を読んでください.

弾性力学の諸定理(4章)

  • 仮想仕事の原理
  • 補仮想仕事の原理
  • ポテンシャルエネルギ最小の定理
  • コンプリメンタリエネルギ最小の定理

について,各原理が1~3章で導出した式とどのような関係のもと導出されているのかについて見ていきます.

仮想仕事の原理

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仮想仕事の原理で使用する式

使用する式は

  • 正解の未知量が満たす式(a)~(e)のうち式(a)(b)
  • 仮想変位が満たす式(c)(d)

です.

上図の(a)~(e)全てを満たす正解の未知量を

 u, v, w ;   \sigma_x, ... ;   \epsilon_x,...

とします.この正解に(c)(d)のみを満たす(図の方程式)仮想変位

\delta u, \delta v, \delta w

をつけた変形状態

u+\delta u, v+\delta v, w+\delta w

を考えます.正解の式が成り立つ(a)(b)(上図灰色)について仮想変位を掛け合わせ,積分し,仮想変位については(c)(d)で式変形をすると以下の原理が導かれます.

仮想仕事の原理(a)(b)が満たされていれば,「物体力,表面力などの外力で仮想変位分移動させたときの仕事(外部仮想仕事)は応力と仮想変位によるひずみの仕事(内部仮想仕事)に等しい」

この原理は(a)(b)の条件と等価です.

また,(e)応力ひずみ関係式は全く出てこないので(e)とは無関係に成立します.

補仮想仕事の原理

仮想仕事の原理で(a)(b)↔(c)(d)としたものが補仮想仕事の原理です.仮想仕事と相補的な関係にあります.

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補仮想仕事の原理で使用する式

使用する式は

  • 正解の未知量が満たす式(a)~(e)のうち式(c)(d)
  • 仮想応力が満たす式(a)(b)

です.

上図の(a)~(e)全てを満たす正解の未知量を

 u, v, w;  \sigma_x, ...;  \epsilon_x,...

とします. この正解に(a)(b)のみを満たす(図の方程式)仮想応力

\delta \sigma_x, \delta \sigma_y, \delta \sigma_z, ...

をつけた応力状態

 \sigma_x+\delta \sigma_x, \sigma_y+\delta \sigma_z, \sigma_z+\delta \sigma_z, ...

を考えます.正解の式が成り立つ(c)(d)(上図灰色)について仮想応力を掛け合わせ,積分し,仮想応力については(a)(b)で式変形をすると以下の原理が導かれます.

補仮想仕事の原理(c)(d)が満たされていれば,「仮想表面力で変位分移動させたときの仕事(外部補仮想仕事)は仮想応力とひずみによる仕事(内部補仮想仕事)に等しい」

この原理は(c)(d)の条件と等価です.

また,(e)応力ひずみ関係式は全く出てこないので(e)とは無関係に成立します.

ポテンシャルエネルギ最小の定理

「仮想仕事の原理」をスタート地点として,

・外力が変位に無関係に一定

の条件を加えると,

 Π =(ひずみエネルギ)ー(外力のした仕事)」

と置けるような式変形ができます. この Πをポテンシャルエネルギと定義します.

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ポテンシャルエネルギ最小の定理

上図の(a)~(e)全てを満たす正解の未知量を

 u, v, w;  \sigma_x, ...;  \epsilon_x,...

とし,(c)(d)のみを満たす変形状態

u+\delta u, v+\delta v, w+\delta w

を考えます.このときそれぞれについてポテンシャルエネルギ Πを求めると,

  Π( u + \delta u, v+\delta v, w+\delta w)   \geq Π(u, v, w)

が導かれます.

すなわち

ポテンシャルエネルギ最小の定理:「(c)(d)を満たす変位のうち,(a)(b)も満たす変位がポテンシャルエネルギを最小にする」

が導かれます.

これは(a)(b)(c)(d)を満たす正解の変位でポテンシャルエネルギが最小となるということを言っており,定性的にも理解しやすいと思います.

仮想仕事の原理と同様,(e)は全く出てこないので(e)とは無関係に成立します.

コンプリメンタリエネルギ最小の定理

ポテンシャルエネルギ最小と相補的な関係にあります( (a)(b)↔(c)(d) )

「補仮想仕事の原理」をスタート地点として,

・境界の変位が外力に無関係に一定

の条件を加えると,

 Π_c =(補ひずみエネルギ)ー(外力のした仕事)」

と置けるような式変形ができます. この Π_cをコンプリメンタリエネルギと定義します.

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コンプリメンタリエネルギ最小の定理
上図の(a)~(e)全てを満たす正解の未知量を

 u, v, w;  \sigma_x, ...;  \epsilon_x,...

とし,(a)(b)のみを満たす応力状態

 \sigma_x+\delta \sigma_x, \sigma_y+\delta \sigma_z, \sigma_z+\delta \sigma_z, ...

を考えます. このときそれぞれについてコンプリメンタリエネルギ Π_cを求めると,

 Π_c(\sigma_x + \delta \sigma_x, ..., \tau_{xy} + \delta \tau_{xy})  \geq Π_c(\sigma_x, ..., \tau_{xy})

が導かれます.

すなわち

コンプリメンタリエネルギ最小の定理:「(a)(b)を満たす応力のうち,(c)(d)も満たす応力がコンプリメンタリエネルギを最小にする」

が導かれます.

これは(a)(b)(c)(d)を満たす正解の応力でコンプリメンタリエネルギが最小となるということを言っています.

補仮想仕事の原理と同様,(e)応力ひずみ関係式は全く出てこないので(e)とは無関係に成立します.

エアリ(Airy)の応力関数(5章)

これは2次元問題を解くときに使える手法です.

2次元問題とは

(a)構成方程式,(b)力学的境界条件,(c)適合条件式,(d)変位境界条件,(e)応力ひずみ関係式を使うことで3次元問題の未知量(応力,ひずみ,変位)を求めることができることを1~3章で扱いました.しかし3次元問題を厳密に解くことは難しいです.

そこで,問題を近似的に2次元に落とし込むことで扱う文字数を減らし,ある程度まで解析的に解を得ることにします.

2次元問題には以下の2つがあります.

  • 平面応力問題(荷重はxy平面のみ,薄板仮定; \sigma_z = \tau_{yz} = \tau_{zx} = 0
  • 平面ひずみ問題(荷重はxy平面のみ,厚板仮定(z軸両端で変位0の拘束があると近似); w = 0 \epsilon_z = \gamma_{yz} = \gamma_{zx} = 0

上記の問題を解く手段の1つとしてエアリの応力関数があります.

エアリの応力関数

以下,平面応力状態でのエアリの応力関数を導出します.

 \sigma_z = \tau_{yz} = \tau_{zx} = 0

であるから

(a)平衡方程式

 \frac{\partial \sigma_x}{\partial x} + \frac{\partial \tau _{yx}}{\partial y}  = 0

 \frac{\partial \tau _{xy}}{\partial x} + \frac{\partial \sigma _{y}}{\partial y} = 0

ここで

  \sigma_x =  \frac{ \partial^2 F }{ \partial y^2}

  \sigma_y =  \frac{\partial ^2 F}{\partial x^2}

  \tau_{xy} =  -\frac{\partial^2 F}{\partial xy}

と置けばこれは平衡方程式を満たし,これをエアリ(Airy)の応力関数といいます.

次にFの条件式を考えます.

(c)適合条件式

  \frac{\partial^2 \epsilon_x}{\partial y^2} + \frac{\partial^2 \epsilon_y}{\partial x^2}  = \frac{\partial^2 \gamma_{xy}}{\partial x \partial y}

( (e)の構成方程式は適合条件式のすべてを満たさないが,  \epsilon_x, \epsilon_y, \gamma_{xy}, u ,v  z に無関係と仮定すると上式のみ必要十分条件として残る)

(e)構成方程式(応力ひずみ関係式)

  \sigma_x = \frac{E}{1 - \nu^2}(\epsilon_x + \nu \epsilon_y)

  \sigma_y = \frac{E}{1 - \nu^2}(\epsilon_y + \nu \epsilon_x)

  \tau_{xy} = G \gamma_{xy}

  G  = \frac{E}{2(1-\nu)}

(a)(c)(e)より

 ( \frac{\partial^2 }{\partial x^2} + \frac{\partial^2 }{\partial\ y^2})( \sigma_x + \sigma_y) = 0

となり,エアリの応力関数を代入して

 ( \frac{\partial^2 }{\partial\ x^2} + \frac{\partial^2 }{\partial\ y^2})^2F = 0

これがFの条件式となります.

ちなみに E → \frac{E}{1 - \nu ^2} \nu → \frac{\nu}{1 - \nu}とすれば平面ひずみの式になります.

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エアリの応力関数で使用する式
ここで,エアリの応力関数を導出するにあたって使用した式は上の灰色になります.

つまり境界条件については全く考慮していないので,実際に解を近似的に求めるときには境界条件を考える必要があるということがわかります.

まとめ

  • 仮想仕事の原理
  • 補仮想仕事の原理
  • ポテンシャルエネルギ最小の定理
  • コンプリメンタリエネルギ最小の定理
  • エアリの応力関数

について,1~3章で導出した各式とどのような関係で導出されているかを図示の元説明しました.

背景として一貫したものがあることを何となく理解して頂ければ幸いです.

ここまで理解出来れば後の章も1~3章で導出した式とエネルギー論を基礎として議論しているだけなので同様に理解できると思います.

蛇足

各定理・原理はやっぱり具体例がないとイメージしづらいので具体例を書けばもっと理解しやすいと思ったのですが,締切に間に合わなそうなのでこの辺にしておきます(ゴメンナサイ).

文献

小林繁夫,近藤恭平 ”工学基礎講座7 弾性力学“ 培風館(1987),ISBN978-4-563-03252-4