狼に埋もれる

advent calendarではじめたものの

2019年を振りかえろう

2019年もあと少しなので忘れないうちに振り返っておきます (2018年以前は振り返っていないので忘れました).

2019年振り返り

1月

新年ですがあまり印象に残っていない月. 面接にいったり学会予稿書いたり解析回したりスキー行っていたり.

2月

2/9-2/24 でニューヨークからサンフランシスコまでドライブするアメリカ横断旅行に行きました. この旅行はまとめておきたいなと思いながら結局まとめていない...修論終わったら書こうかな. 道中で悪夢にうなされ,-16度の気温に苦しめられ,途中参加した友人のロスバゲ,圏外でのスリップ事故,事故から畳みこむようなインキーのやらかしなど,いろいろトラブル続きで忘れられない旅行になりました.結果的には死ぬほど楽しかったけど.

この時点で外資ベンチャーITに行かないことは決めていたので心置きなく旅行を楽しめました...と言いたいところだけど2/25から就活系のあれこれが始まっていてなんやかんや落ち着かなかった気も.

3月

本格的に就活が始まりました.夏冬のインターンから面接がちょこちょこと続いていたのですが,それらの企業に加えて色々な業界を見て回ってたのでかなり忙しかった気がします.色々回っていたのはその業界に行かないという気持ちを逆に固めるためでもありました( 知らない業界は偏見で悪く思ってしまう節があったので).

あとは学会を東京で1回.

4月

就活自体は続いてましたが上旬でほぼ落ち着き研究生活に戻っていきました. 行く企業についてはめちゃめちゃに迷ってた思い出があります.

5月

全然思い出がない... GWに旅行行ったくらい.あとはたぶん研究.

6月

8,9月の国際学会2つ(1つは名ばかりの国際学会)と国内学会1つのための予稿準備くらい. 身内でライフイベントが変化してそちらの方で色々とバタバタしてました.

7月

ふと思い立って中型バイクの免許を取りに教習所に通い始めました. 自動車と違って教習が楽しかったのでバイクの方が向いていそう.

8月

8/6で無事中型バイクの免許を取得.この日に落ちたら都合上次の試験が9月になるところだったのでひやひやしてました.

8/7-8/9 では国内学会で長野へ.

8/10-19 では国際学会でメルボルンに行きました.バリスタの町と言われてたのでわけもわからずとにかくコーヒーを飲みまくっていました.カジノでは負けました.

8/23-9/1 では友人に誘われてアイスランドのドライブ一周旅行(既視感)に行きました.氷河湖ツアーで地獄を見たことと訳の分からない罰金を取られた以外は特に大きなトラブルもなく穏やかな行程.この旅行でアイスランドが大好きになりました.こちらもかなり楽しかったので後でまとめたい...

9月

旅行から帰り即学会.これで学会が落ち着いたので穏やかな(?)生活に戻りました.

10月

某資格試験の勉強と加えてオンライン英会話を始めました(あまりに話せないため). 最近は修論を理由にさぼり気味.

11月

研究室のワークショップとしてインドの工科大学に11/11-11/17で行きました. インドは話に聞いていた通りのカオスな国でした.もう一回はいいかな.そしてついに20代後半に突入.

焦るのが嫌だったのと論文投稿をしたかったので早めに修論の草稿をこの辺で書いてました.

12月

引っ越しの準備と投稿用論文の執筆でバタバタしてたらもう大晦日

まとめと抱負

大ライフイベント

  • 就職先が決まる
  • 身内のごたごた

小ライフイベント

  • 引っ越し(予定)
  • 某資格取得
  • バイクの免許取得

研究関連

  • 学会4回
  • ワークショップ1回
  • 論文の執筆

行けたところ

くらいが今年のハイライトでした.

ここに書いていないことも含め,自分の中では今年は色々な経験ができて非常に楽しい年になりました.

ただ今年の反省点は

  • 全くと言っていいほど研究以外に関する本を読まなかった
  • 忙しいときに余裕のない感じが出ていた(周りに気を使わせてた時があった)

の2点があったので,来年はその改善も加えて

  • 今までしていない経験をして楽しく過ごす
  • 1か月に平均1冊は興味のある本を読む
  • 忙しくてもめちゃめちゃ余裕な風を装う(行動は思考に影響するので)

を目標にしようと思います.加えて

  • 英会話を続ける(1か月平均18レッスンでできれば)
  • 生活水準を上げない(就職するのでお金を調子に乗って使わないように)
  • 消耗しない(東京は何かと消耗するので)

をサブ目標にしたいと思います. それでは,良いお年を.

インフレータブル構造とは何ぞや

この記事は航空宇宙工学科・航空宇宙工学専攻2019のアドベントカレンダー13日目の記事です.

航空宇宙のアドベントカレンダーを書くのも最後になるので自分の研究に(少しだけ)関連した構造について紹介します.

adventar.org

インフレータブル構造とは

定義

インフレータブル構造とは展開可能構造物の一種です.

そもそも展開可能構造とは?という話になりますが 展開可能構造物とは収納形状から伸展形状へと自身の形状を変化させることができる構造のことを言います.衛星に搭載される展開可能な太陽光パネルもこの構造に含まれます.

構造を宇宙へ持っていくためには衛星の容量・ペイロードが決まっているためその要求を満たすこと,そして確実に展開することが必要です(収納性・軽量性・信頼性).そのためこうした要求,特に収納性と軽量性を満たすのに展開可能構造が採用されてきました.

では,インフレータブル構造とは?

JAXA [1]のホームページの文章から引用すると次のようになります.

インフレータブルとは「膨張できる」という意味です。膜面を内圧ガスで膨らませた空気膜構造物としてのインフレータブル構造物は,地上建築物としてすでに長い歴史を持っています。1970年の「大阪万国博覧会」では多数の空気膜構造物パビリオンが出現しました。また,最近では東京ドームがよく知られています。空気膜構造物の特徴は,大空間が作れる,建造工期が短い,低コスト,地震に強いなどですが,これらの特徴は宇宙構造物にも適していると考えられます。

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インフレータブル構造 [2]

まとめると,「収納した状態からガスで膨らませた後,その形状を保持できる構造」ということができます.数ある展開構造の中でもインフレータブル構造は特に収納性の点で優れた構造になっています.

歴史

インフレータブル構造の歴史は1950年代まで遡ります.宇宙で初めて実証実験がされたのは1960年のEcho Balloon [3]であり,1996年にはインフレータブル反射鏡の展開実験(Inflatable Antenna Experiment)[4] ,2012年にはインフレータブルチューブ(円筒型のインフレータブル構造)をアクチュエータとして使用するSPace INflatable Actuated Rod (SPINAR)の展開実験も行われました [5].

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Echo Balloon [3]

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Inflatable Antenna Experiment [4]

月面の簡易住居などの提案もされてきました [6](提案だけ).

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Concept of Inflatable Habitat [6]

インフレータブル構造の問題点

これだけ聞くと将来有望いいことづくめの構造に見えますが,どんな構造にも欠点があるようにインフレータブル構造にも色々な問題点を抱えています.例を挙げると

  • 展開のガスが容量をとること
  • 長期使用のためには硬化が必須であること
  • 展開時に意図通りの展開をしないこと

といったことです.特に3番目の展開挙動の不安定性は実用化に大きな障害となっています.これはインフレータブル構造の収納形状(折りたたみ方)の違いやガスの通り方によってインフレータブル構造の展開の仕方が変化してしまうためです.

この問題の解決のため,「折りたたみ方による展開挙動への影響」がいろいろと研究されてきました. ここでは折りたたみ方に焦点を当てて説明します.

インフレータブル構造の研究ー折りたたみ方

インフレータブル構造の折りたたみ方は3つに大別されます.

  • Zigzag
  • Roll
  • Origami

Zigzag折り

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Zigzag折り [7]

Zigzag折りは一番簡単な折りたたみ方です.インフレータブル構造をジグザグと折っていけば完成です.これは折り目以外に変形が生じない,作り方が簡単という利点がありますが,展開の際には一つ一つの折り目を空気が通っていかなければならないため空気が滞りやすくなるという欠点があります.この折り方は本質的に不安定であるという報告もされているくらいです.ただ,Zigzag折りを展開しやすくする改良の折り方も提案されています.

Roll折り

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Roll折り [7]

くるくるとロール状に丸めて収納するのがこの折りたたみ方です.これは折り方が単純なだけでなく,折り目が生じない(局所的には存在する)ため,展開が予測しやすいという利点があります.ただ,ガスの通気性が悪いこと,構造の両端の一方がロール状内部にあるため他の部材との接続性が悪いという欠点があります.

Origami折り

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Origami折り [7]

Origami折りは蛇腹・筒の形状から平面形状へと折り畳めることができる折りたたみ方です.これは図のように色々なパターンが考えられます.Origamiパターンの利点はその通気性の良さです.折りたたんだ時にでも図のように中心部分に空間ができるため,ガスが非常に通りやすくなります.ただし,例にもれずこの折り方にも欠点があり,折り方が複雑であることに加え,展開中の材料の変形が問題となっています.

実は平面に折りたたむことができる筒状の折り紙は,一般的に収納・展開で折り目以外の部分に変形が生じることがわかっています.これは有名(?)なMiura折りでも同様で,Miura折りを筒状にしたらその構造は展開中に変形してしまいます.

折り目にしか変形が生じない筒状の折り紙構造も開発されているのですが,最終形状はガタガタした蛇腹状になるという条件付きであり,きれいな円筒形部材にしようとすると結局変形が生じてしまいます.

以上のように色々な折り方は研究されているものの,どの折り方にも欠点はあり,「確実な」展開というものは保証されていないのが現状です.また,各折り方が展開中にどのような変形を生じるかいうことはほとんど研究されていません.というのは「Origamiの折り方」の研究は理論的に議論されることが多く,工学的な解析はほとんどなされないからです(しているものもありますが結構お粗末なものであり,理論屋からみた工学屋の数学的な議論もこんな風に粗末に見えているんだろうな~と思いながら論文を見ています).

Zigzag折り,Roll折りについては様々な手法で挙動の解析が行われてきましたが,同様に上記の目標は達成されていません.また,折り目の影響を入れた解析はほとんどされていないのが実情です.

まとめ

  • インフレータブル構造とは展開可能構造物の一種で,収納した状態からガスで膨らませた後,その形状を保持できる.
  • 収納性・軽量性に優れており宇宙利用に期待ができるが,一方で展開挙動の不安定性という問題を抱えている.
  • 折り方やその展開について様々な研究がされているが依然としてブレイクスルーはない.

蛇足

インフレータブル構造に関連した研究として

  • 折り目の影響を入れた解析手法の構築(そもそも折り目(塑性)の研究が少ない)
  • 筒型Origamiの展開中の材料の変形解析や,数あるOrigamiパターンを工学的観点から分類できる手法

などができれば博士課程を(恐らく)とれると思うのでぜひともB3の方,構造の研究室にどうでしょう.

参考文献

  1. 宇宙科学の最前線:宇宙インフレータブル構造物, JAXA http://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2006/higuchi/ アクセス日:2019/12/06
  2. Griffith, D. T., and Main, J. A., “Structural Modeling of Inflated FoamRigidized Aerospace Structures,” Journal of Aerospace Engineering, Vol. 13, No. 2, 2000, pp. 37–46.
  3. Project Echo, NASA https://www.nasa.gov/centers/langley/about/project-echo.html アクセス日:2019/12/06
  4. IAE - eoPortal Directory https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/i/iae アクセス日:2019/12/06
  5. Higuchi, K., Ogi, Y., Watanabe, K., and Watanabe, A., "Verification of Practical Use of an Inflatable Structure in Space," Transactions of the Japan Society for Aeronautical and Space Sciences, Space Technology Japan, Vol. 7 No. 26, July 2009, pp. 7-11.
  6. Cadogan, D., Stein, J., and Grahne, M., "Inflatable Composite Habitat Structures for Lunar and Mars Exploration," Acta Astronautica, Vol. 44, Nos. 7-12, 1999, pp. 399-406.
  7. Schenk, M., Viquerat, A. D, Seffen, K. A., and Guest, S. D., "Review of Inflatable Booms for Deployable Space Structures: Packing and Rigidization," Journal of Spacecraft and Rockets, Vol. 51, No. 3, 2014, pp. 762-778. (本ブログで全般的に参考)

大学3年初期に知っておきたかった弾性力学のこと 2

本記事は「東京大学航空宇宙工学科/専攻 Advent Calendar 2018」 19日目の記事です.

はじめに

1年ぶりとなっておりますが前回の記事の続きものです.

今年のAdvent Calendarは学術的なことが多いことに自分も感化され,研究内容のことや今勉強してる連続体損傷の話やらで書けたらいいなと思っていたのですが,あれよあれよと締め切りになってしまったので大人しく去年の続きをつらつらと書こうと思います.

どういう記事か

前回の記事同様,授業で扱った弾性力学について,こういうことを初修時に知っていれば体系的に理解できたな,ということを書いています.

誰向けの記事か

  • 弾性力学を履修したが何もわからず終わった大学3年生(あるいは4年生)
  • 前回の記事を読んだ方

誰向けでない記事か

  • 数学的な証明を逐一追いたい方(厳密な証明は教科書を読もう)
  • 弾性力学のテストのための問題を解くテクニックが知りたい方
  • 弾性力学が何となくわかっている方(知っていることだけがこの記事で書かれているので時間の無駄だと思います)

目的

  • 弾性力学講義4~5章で導出する原理・定理を1~3章の式と結びつけて何をしているのかを何となく知る.
  • 特に各原理が1~3章の式のどこを満たしていてどこを満たしていないで導き出されたものかを知る.

手段

  • 仮想仕事の原理
  • 補仮想仕事の原理
  • ポテンシャルエネルギ最小の定理
  • コンプリメンタリエネルギ最小の定理
  • エアリの応力関数

について,1~3章で導出した各式とどのような関係で導出されているかを図示の元説明する.

弾性力学(4~5章)

4章:弾性力学の諸定理,5章:2次元弾性問題(Airyの応力関数)について扱います.

前提

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前回の記事の図を少し変えたものを用意しました(適合条件式と変位表示式を一緒にしたもの).これは1~3章で導出した式とその関係性について図示したものです.

以下,上図の各式は(a)~(e)で呼ぶことにします.

この先の内容もこの図で説明していくのでなんのこっちゃという方は前回の記事 kksn-kgsn.hatenablog.com を読んでください.

弾性力学の諸定理(4章)

  • 仮想仕事の原理
  • 補仮想仕事の原理
  • ポテンシャルエネルギ最小の定理
  • コンプリメンタリエネルギ最小の定理

について,各原理が1~3章で導出した式とどのような関係のもと導出されているのかについて見ていきます.

仮想仕事の原理

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仮想仕事の原理で使用する式

使用する式は

  • 正解の未知量が満たす式(a)~(e)のうち式(a)(b)
  • 仮想変位が満たす式(c)(d)

です.

上図の(a)~(e)全てを満たす正解の未知量を

 u, v, w ;   \sigma_x, ... ;   \epsilon_x,...

とします.この正解に(c)(d)のみを満たす(図の方程式)仮想変位

\delta u, \delta v, \delta w

をつけた変形状態

u+\delta u, v+\delta v, w+\delta w

を考えます.正解の式が成り立つ(a)(b)(上図灰色)について仮想変位を掛け合わせ,積分し,仮想変位については(c)(d)で式変形をすると以下の原理が導かれます.

仮想仕事の原理(a)(b)が満たされていれば,「物体力,表面力などの外力で仮想変位分移動させたときの仕事(外部仮想仕事)は応力と仮想変位によるひずみの仕事(内部仮想仕事)に等しい」

この原理は(a)(b)の条件と等価です.

また,(e)応力ひずみ関係式は全く出てこないので(e)とは無関係に成立します.

補仮想仕事の原理

仮想仕事の原理で(a)(b)↔(c)(d)としたものが補仮想仕事の原理です.仮想仕事と相補的な関係にあります.

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補仮想仕事の原理で使用する式

使用する式は

  • 正解の未知量が満たす式(a)~(e)のうち式(c)(d)
  • 仮想応力が満たす式(a)(b)

です.

上図の(a)~(e)全てを満たす正解の未知量を

 u, v, w;  \sigma_x, ...;  \epsilon_x,...

とします. この正解に(a)(b)のみを満たす(図の方程式)仮想応力

\delta \sigma_x, \delta \sigma_y, \delta \sigma_z, ...

をつけた応力状態

 \sigma_x+\delta \sigma_x, \sigma_y+\delta \sigma_z, \sigma_z+\delta \sigma_z, ...

を考えます.正解の式が成り立つ(c)(d)(上図灰色)について仮想応力を掛け合わせ,積分し,仮想応力については(a)(b)で式変形をすると以下の原理が導かれます.

補仮想仕事の原理(c)(d)が満たされていれば,「仮想表面力で変位分移動させたときの仕事(外部補仮想仕事)は仮想応力とひずみによる仕事(内部補仮想仕事)に等しい」

この原理は(c)(d)の条件と等価です.

また,(e)応力ひずみ関係式は全く出てこないので(e)とは無関係に成立します.

ポテンシャルエネルギ最小の定理

「仮想仕事の原理」をスタート地点として,

・外力が変位に無関係に一定

の条件を加えると,

 Π =(ひずみエネルギ)ー(外力のした仕事)」

と置けるような式変形ができます. この Πをポテンシャルエネルギと定義します.

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ポテンシャルエネルギ最小の定理

上図の(a)~(e)全てを満たす正解の未知量を

 u, v, w;  \sigma_x, ...;  \epsilon_x,...

とし,(c)(d)のみを満たす変形状態

u+\delta u, v+\delta v, w+\delta w

を考えます.このときそれぞれについてポテンシャルエネルギ Πを求めると,

  Π( u + \delta u, v+\delta v, w+\delta w)   \geq Π(u, v, w)

が導かれます.

すなわち

ポテンシャルエネルギ最小の定理:「(c)(d)を満たす変位のうち,(a)(b)も満たす変位がポテンシャルエネルギを最小にする」

が導かれます.

これは(a)(b)(c)(d)を満たす正解の変位でポテンシャルエネルギが最小となるということを言っており,定性的にも理解しやすいと思います.

仮想仕事の原理と同様,(e)は全く出てこないので(e)とは無関係に成立します.

コンプリメンタリエネルギ最小の定理

ポテンシャルエネルギ最小と相補的な関係にあります( (a)(b)↔(c)(d) )

「補仮想仕事の原理」をスタート地点として,

・境界の変位が外力に無関係に一定

の条件を加えると,

 Π_c =(補ひずみエネルギ)ー(外力のした仕事)」

と置けるような式変形ができます. この Π_cをコンプリメンタリエネルギと定義します.

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コンプリメンタリエネルギ最小の定理
上図の(a)~(e)全てを満たす正解の未知量を

 u, v, w;  \sigma_x, ...;  \epsilon_x,...

とし,(a)(b)のみを満たす応力状態

 \sigma_x+\delta \sigma_x, \sigma_y+\delta \sigma_z, \sigma_z+\delta \sigma_z, ...

を考えます. このときそれぞれについてコンプリメンタリエネルギ Π_cを求めると,

 Π_c(\sigma_x + \delta \sigma_x, ..., \tau_{xy} + \delta \tau_{xy})  \geq Π_c(\sigma_x, ..., \tau_{xy})

が導かれます.

すなわち

コンプリメンタリエネルギ最小の定理:「(a)(b)を満たす応力のうち,(c)(d)も満たす応力がコンプリメンタリエネルギを最小にする」

が導かれます.

これは(a)(b)(c)(d)を満たす正解の応力でコンプリメンタリエネルギが最小となるということを言っています.

補仮想仕事の原理と同様,(e)応力ひずみ関係式は全く出てこないので(e)とは無関係に成立します.

エアリ(Airy)の応力関数(5章)

これは2次元問題を解くときに使える手法です.

2次元問題とは

(a)構成方程式,(b)力学的境界条件,(c)適合条件式,(d)変位境界条件,(e)応力ひずみ関係式を使うことで3次元問題の未知量(応力,ひずみ,変位)を求めることができることを1~3章で扱いました.しかし3次元問題を厳密に解くことは難しいです.

そこで,問題を近似的に2次元に落とし込むことで扱う文字数を減らし,ある程度まで解析的に解を得ることにします.

2次元問題には以下の2つがあります.

  • 平面応力問題(荷重はxy平面のみ,薄板仮定; \sigma_z = \tau_{yz} = \tau_{zx} = 0
  • 平面ひずみ問題(荷重はxy平面のみ,厚板仮定(z軸両端で変位0の拘束があると近似); w = 0 \epsilon_z = \gamma_{yz} = \gamma_{zx} = 0

上記の問題を解く手段の1つとしてエアリの応力関数があります.

エアリの応力関数

以下,平面応力状態でのエアリの応力関数を導出します.

 \sigma_z = \tau_{yz} = \tau_{zx} = 0

であるから

(a)平衡方程式

 \frac{\partial \sigma_x}{\partial x} + \frac{\partial \tau _{yx}}{\partial y}  = 0

 \frac{\partial \tau _{xy}}{\partial x} + \frac{\partial \sigma _{y}}{\partial y} = 0

ここで

  \sigma_x =  \frac{ \partial^2 F }{ \partial y^2}

  \sigma_y =  \frac{\partial ^2 F}{\partial x^2}

  \tau_{xy} =  -\frac{\partial^2 F}{\partial xy}

と置けばこれは平衡方程式を満たし,これをエアリ(Airy)の応力関数といいます.

次にFの条件式を考えます.

(c)適合条件式

  \frac{\partial^2 \epsilon_x}{\partial y^2} + \frac{\partial^2 \epsilon_y}{\partial x^2}  = \frac{\partial^2 \gamma_{xy}}{\partial x \partial y}

( (e)の構成方程式は適合条件式のすべてを満たさないが,  \epsilon_x, \epsilon_y, \gamma_{xy}, u ,v  z に無関係と仮定すると上式のみ必要十分条件として残る)

(e)構成方程式(応力ひずみ関係式)

  \sigma_x = \frac{E}{1 - \nu^2}(\epsilon_x + \nu \epsilon_y)

  \sigma_y = \frac{E}{1 - \nu^2}(\epsilon_y + \nu \epsilon_x)

  \tau_{xy} = G \gamma_{xy}

  G  = \frac{E}{2(1-\nu)}

(a)(c)(e)より

 ( \frac{\partial^2 }{\partial x^2} + \frac{\partial^2 }{\partial\ y^2})( \sigma_x + \sigma_y) = 0

となり,エアリの応力関数を代入して

 ( \frac{\partial^2 }{\partial\ x^2} + \frac{\partial^2 }{\partial\ y^2})^2F = 0

これがFの条件式となります.

ちなみに E → \frac{E}{1 - \nu ^2} \nu → \frac{\nu}{1 - \nu}とすれば平面ひずみの式になります.

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エアリの応力関数で使用する式
ここで,エアリの応力関数を導出するにあたって使用した式は上の灰色になります.

つまり境界条件については全く考慮していないので,実際に解を近似的に求めるときには境界条件を考える必要があるということがわかります.

まとめ

  • 仮想仕事の原理
  • 補仮想仕事の原理
  • ポテンシャルエネルギ最小の定理
  • コンプリメンタリエネルギ最小の定理
  • エアリの応力関数

について,1~3章で導出した各式とどのような関係で導出されているかを図示の元説明しました.

背景として一貫したものがあることを何となく理解して頂ければ幸いです.

ここまで理解出来れば後の章も1~3章で導出した式とエネルギー論を基礎として議論しているだけなので同様に理解できると思います.

蛇足

各定理・原理はやっぱり具体例がないとイメージしづらいので具体例を書けばもっと理解しやすいと思ったのですが,締切に間に合わなそうなのでこの辺にしておきます(ゴメンナサイ).

文献

小林繁夫,近藤恭平 ”工学基礎講座7 弾性力学“ 培風館(1987),ISBN978-4-563-03252-4

大学3年初期に知っておきたかった弾性力学のこと 1

はじめに

始めてブログを書くにあたって,とりあえずみんな知ってそうなもので少しは役立ちそうなものがいいなと思ったので弾性力学のことについてつらつらと書こうかなと思います.

材料力学と弾性力学との違い

正確な定義がわからないのですが,弾性力学は応力とひずみ間に線形関係が成り立つ物体の解析のための学問,材料力学は弾性力学の内容を現実の構造物設計で簡単に扱うために抜粋したものという印象があります.高校物理と大学1年時の物理といった関係に似たような感じがします.

大学3年時の弾性力学

大学3年時の弾性力学の授業は3回目くらいから「写経→よく分からない→写経→休憩でスマホ」のループに入り,過去問を何となく解いて何となく試験を終えてつまり弾性力学は何だったんだろう??となる人が大半だと思います.僕がそうだったのでみんなそうだと勝手に思ってます.今もそうですが,何も分からなかった状態が少しは何となくわかった気になる状態になったので3年時にこういう背景知っておけば多少理解できたのかもしれない(聞いてなかっただけで言っていたのかもしれない)といった内容を書いていきます.

誰向けの記事か

弾性力学を履修したが僕と同じ状態に陥った大学3年生あるいは4年生向け.記事も履修していることを前提とした書き方となっているため定義などあまり詳しく書いてないです.ただこの記事を読みそうな人は同学科同学年の某試験を経て弾性力学への理解が多少深まった4年生の少数くらいしかいなさそうです.

つまるところ

誰の役にも立たない備忘録です.

目的

・弾性力学講義1~3章で何言ってるのかなんとなく知る.

・材料力学と弾性力学がなんとなく結びつかないことの解決.

結論

何が言いたいかというとこの図だけです.

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弾性方程式まとめ
この関係で応力,ひずみ,変位が求まるねという話.

弾性力学(1~3章)

1章:応力の解析,2章:ひずみの解析,3章:応力ひずみ関係式と弾性方程式について扱います.

応力と平衡方程式

応力の定義

応力ベクトルとは,外力作用のもと平衡状態にある物体をある面で切断したとき,その面のうち微小面積要素に働く内力のことをいいます. 面に垂直方向成分を垂直応力 \sigma,平行方向成分を剪断応力 \tauといいます.

ある点における応力状態は


\begin{bmatrix}
σ_x & τ_{yx} & τ_{zx} \\\ 
τ_{xy} & σ_y & τ_{zy} \\\
τ_{xz} & τ_{yz} & σ_z
\end{bmatrix}

と9つの成分で(応力テンソル)表されます(テンソルの説明は省略).ここで  τ_{yx}= τ_{xy},  τ_{zx}= τ_{xz},  τ_{zy}= τ_{yz}が微小要素のモーメントの釣り合いから導けるため結局6つの成分がわかればその点の応力状態がわかるということになります.

平衡方程式

微小要素の釣り合いを考えることで  x, y, z 軸方向に対して以下の3式が導けます.

 \frac{\partial σ_x}{\partial x} + \frac{\partial τ_{yx}}{\partial y} + \frac{\partial τ_{zx}}{\partial z} + X = 0

 \frac{\partial τ_{xy}}{\partial x} + \frac{\partial σ_{y}}{\partial y} + \frac{\partial τ_{zy}}{\partial z} + Y = 0

 \frac{\partial τ_{xz}}{\partial x} + \frac{\partial τ_{yz}}{\partial y} + \frac{\partial σ_{z}}{\partial z} + Z = 0

 X, Y, Z は単位体積当たりの物体力(重力のように物体内部に直接作用する外力)です. 未知数の応力成分6に対して式は3つなのでこれだけでは応力は求まりません.なので変形などを考える必要があります.

ひずみと変位表示式と適合条件式

ひずみの定義(変位表示式)

ひずみは垂直ひずみ \epsilonと剪断ひずみ\gammaがあり,垂直ひずみはある点と軸方向にある近傍点の変形量をもとの長さで乗じた値,剪断ひずみはある点と2軸方向の近傍2点(ある点中心になす角90°)の角度変化量で定義され, x, y, z軸方向の変位を u, v, wと置くと,微小変形の場合

 \epsilon_x = \frac{\partial u}{\partial x}

 \epsilon_y = \frac{\partial v}{\partial y}

 \epsilon_z = \frac{\partial w}{\partial z}

 \gamma_{xy}= \gamma_{yx}= \frac{\partial v}{\partial x} +\frac{\partial u}{\partial y}

 \gamma_{yz}= \gamma_{zy}= \frac{\partial w}{\partial y} +\frac{\partial v}{\partial z}

 \gamma_{zx}= \gamma_{xz}= \frac{\partial u}{\partial z} +\frac{\partial w}{\partial x}

で表されます.これを変位表示式といいます.

ひずみの成分もテンソル表記で


\begin{bmatrix}
\epsilon_x &  \frac{1}{2}\gamma_{xy} &   \frac{1}{2}\gamma_{zx} \\\ 
 \frac{1}{2} \gamma_{xy} & \epsilon_y &   \frac{1}{2}\gamma_{yz} \\\
  \frac{1}{2}\gamma_{zx} &   \frac{1}{2}\gamma_{yz} & \epsilon_z
\end{bmatrix}

と未知数6個で表されます. \frac{1}{2}がついてるのはごちゃごちゃ計算するとそうなるのでそういうものとしといて下さい.

変位の未知数3個と合わせると未知数は9個,対して定義から導かれる変位表示式は6つとまた式が3つ足りない状態になっています.なのでまだ別の式を考えないとなりません.

適合条件式

式が足りない問題の前に,先の6つの方程式に着目すると,たとえばある点でのひずみ成分6つが定まった時には変位は u, v, wと1通り(1価の変位)に定まるはずですが,3つの変位 u, v, wに対して方程式が6つあるため,積分により変位を求めようとすると一般的には一価に変位を求めることができません.なので,一価の変位を得るために6つのひずみが満たさなければならない必要十分条件(適合条件式)を考える必要があります.

これも詳細は省略しますが,ある点と近傍点との相対変位と偏微分の順序交換を考えることで以下の必要十分条件(適合条件式)が導かれます.

  \frac{\partial^2 \epsilon_x}{\partial y^2} + \frac{\partial^2 \epsilon_y}{\partial x^2}  = \frac{\partial^2 \gamma_{xy}}{\partial x \partial y}

  \frac{\partial^2 \epsilon_y}{\partial z^2} + \frac{\partial^2 \epsilon_z}{\partial y^2}  = \frac{\partial^2 \gamma_{yz}}{\partial y \partial z}

  \frac{\partial^2 \epsilon_z}{\partial x^2} + \frac{\partial^2 \epsilon_x}{\partial z^2}  = \frac{\partial^2 \gamma_{zx}}{\partial z \partial x}

  2\frac{\partial^2 \epsilon_x}{\partial y \partial z}  = \frac{\partial }{\partial x}( -\frac{\partial \gamma_{yz}}{ \partial x} +\frac{\partial \gamma_{zx}}{ \partial y} + \frac{\partial \gamma_{xy}}{ \partial z}  )

  2\frac{\partial^2 \epsilon_y}{\partial z \partial x}  = \frac{\partial }{\partial y}( \frac{\partial \gamma_{yz}}{ \partial x} -\frac{\partial \gamma_{zx}}{ \partial y} + \frac{\partial \gamma_{xy}}{ \partial z}  )

  2\frac{\partial^2 \epsilon_z}{\partial x \partial y}  = \frac{\partial }{\partial z}( \frac{\partial \gamma_{yz}}{ \partial x} +\frac{\partial \gamma_{zx}}{ \partial y} - \frac{\partial \gamma_{xy}}{ \partial z}  )

構成方程式(応力ひずみ関係式)

足りない式を補うために応力テンソルとひずみテンソルを結びつける方程式を考えます.応力成分6つとひずみ成分6つが線形関係にあるとする(線形弾性体)と,一般的に次のような線形関係式で表されます.


\begin{bmatrix}
\sigma_x \\\ \sigma_y \\\ \sigma_z \\\ 
\tau_{yz} \\\ \tau_{zx} \\\ \tau_{xy}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
c_{11} & c_{12} & c_{13} &c_{14} & c_{15} & c_{16}\\\ 
c_{21} & c_{22} & c_{23} &c_{24} & c_{25} & c_{26}\\\ 
c_{31} & c_{32} & c_{33} &c_{34} & c_{35} & c_{36}\\\ 
c_{41} & c_{42} & c_{43} &c_{44} & c_{45} & c_{46}\\\ 
c_{51} & c_{52} & c_{53} &c_{54} & c_{55} & c_{56}\\\ 
c_{61} & c_{62} & c_{63} &c_{64} & c_{65} & c_{66}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\epsilon_x \\\ \epsilon_y \\\ \epsilon_z \\\ 
\gamma_{yz} \\\ \gamma_{zx} \\\ \gamma_{xy}
\end{bmatrix}

c_{ij}は定数で,熱弾性は考慮していません.またまた導出を省略すると  \frac{\partial \sigma_x}{\epsilon_y} = \frac{\partial \sigma_y}{\epsilon_x}などが成り立つため,実際は


\begin{bmatrix}
\sigma_x \\\ \sigma_y \\\ \sigma_z \\\ 
\tau_{yz} \\\ \tau_{zx} \\\ \tau_{xy}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
c_{11} & c_{12} & c_{13} &c_{14} & c_{15} & c_{16}\\\ 
 & c_{22} & c_{23} &c_{24} & c_{25} & c_{26}\\\ 
 &  & c_{33} &c_{34} & c_{35} & c_{36}\\\ 
 &  &  &c_{44} & c_{45} & c_{46}\\\ 
 & & & &  c_{55} & c_{56}\\\ 
\rm{sym} & & & & &  c_{66}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\epsilon_x \\\ \epsilon_y \\\ \epsilon_z \\\ 
\gamma_{yz} \\\ \gamma_{zx} \\\ \gamma_{xy}
\end{bmatrix}

と21個の定数で表せます. 軸まわりに180°回転しても性質が変わらないなどの条件を付加していくと定数の数がどんどん減っていき,弾性特性が各点でどの方向にも変わらないという等方性の場合


\begin{bmatrix}
\sigma_x \\\ \sigma_y \\\ \sigma_z \\\ 
\tau_{yz} \\\ \tau_{zx} \\\ \tau_{xy}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
c_{11} & c_{12} & c_{12} & 0 & 0  & 0\\\ 
 & c_{11} & c_{12} &0 &0 & 0\\\ 
 &  & c_{11} &0&0&0 \\\ 
 &  &  &\frac{c_{11}- c_{12}}{2} & 0& 0\\\ 
 & & & & \frac{c_{11}- c_{12}}{2}& 0\\\ 
\rm{sym} & & & & & \frac{c_{11}- c_{12}}{2}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\epsilon_x \\\ \epsilon_y \\\ \epsilon_z \\\ 
\gamma_{yz} \\\ \gamma_{zx} \\\ \gamma_{xy}
\end{bmatrix}

でと2つの定数のみで表されます.実用弾性定数としてヤング率 E,剪断弾性係数 Gポアソン \nuの3つを導入し,これらを用いて2つの定数を表すと


\begin{bmatrix}
\epsilon_x \\\ \epsilon_y \\\ \epsilon_z \\\ 
\gamma_{yz} \\\ \gamma_{zx} \\\ \gamma_{xy}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
\frac{1}{E} & -\frac{\nu}{E} & -\frac{\nu}{E} & 0 & 0  & 0\\\ 
 & \frac{1}{E} & -\frac{\nu}{E} &0 &0 & 0\\\ 
 &  & \frac{1}{E} &0&0&0 \\\ 
 &  &  &\frac{1}{G} & 0& 0\\\ 
 & & & & \frac{1}{G}& 0\\\ 
\rm{sym} & & & & & \frac{1}{G}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\sigma_x \\\ \sigma_y \\\ \sigma_z \\\ 
\tau_{yz} \\\ \tau_{zx} \\\ \tau_{xy}
\end{bmatrix}

(但し  E=2(1+\nu)G

と表すことができます(表記をわかりやすくするために定数 c_{ij}の行列が逆行列になっていることに注意). ポアソン比などを考慮せず1次元のみで考えると \sigma =E \epsilon \tau = G \gammaなどと材料力学でよくみた式が出てくることがわかります.

これで応力とひずみを関係づける6つの式が導出されました. 応力とひずみの節で足りない式の数は6式だったので,これで理論上すべての未知数が求められることになります.これらの式に境界条件を与えることで,唯一解が求められます.

再度結論

弾性力学1~3章でやったこと:材料力学で出てきた応力,ひずみの厳密な定義とそれらの成分を求めるための関係式を考えた.

つまるところ次のような関係性があるわけです(図の数字は式,あるいは未知数の数を表している).未知数として応力とひずみと変位の15個があり,応力と力を結びつける平衡方程式,ひずみと変位(変位表示式)を結びつける適合条件式,応力とひずみを結びつける構成方程式の3つの式と境界条件により未知数が求まる.これらの式を弾性問題の基礎方程式,すなわち弾性方程式といいます.

f:id:y-d-spast-impe1:20171222011128p:plain
弾性方程式まとめ
流れとしては,外力作用のもと平衡状態にある物体の

・応力成分(6個)求めたい

・平衡方程式(3式)

・3式足りない

・一方ひずみと変位も求めたい(9個)

・変位表示式(適合条件式)(6式)

・計6式足りない

・応力とひずみの関係式を考える(6式)

・無事方程式と未知数の数が一致

・理論上は解ける

という感じでしょうか.

ちなみに変位表示式と適合条件式のうち,変位表示式を用いると応力を変位で表した基礎方程式が導かれ,適合条件式を用いると変位を応力で表した基礎方程式が導かれます.変位を求めたいなら前者,応力を求めたいなら後者を用いるとよいでしょう.

理論上は解けると書きましたが,一般的に3次元弾性問題は厳密に解を求めるのが困難であり,平面ひずみ(2次元)の問題や,板厚を薄くすることで近似的に2次元問題にする薄い板や殻の問題に落とし込むと比較的容易に厳禁解が求まります.なのでこの関係性を学んだあと平面問題,板の問題と学んでいくわけですね.

材料力学との対応例

材料力学ではポアソン比の概念は出てきますが,基本的に梁を1次元問題として考えています(梁がある方向に伸びたとき別方面の縮みは考慮していない).弾性力学との対応を考えて解こうとすると以下のようになります.

例としていかにもパワポで作成した長さLの梁を外力Fで引っ張った時の端の変位\deltaを求めることを考えます.断面積はAです.

f:id:y-d-spast-impe1:20171222050126p:plain
1次元梁問題

材料力学をやっていればすぐに\sigma=\frac{F}{A}\epsilon = \frac{\delta}{L}\sigma=E \epsilonから\delta = \frac{FL}{AE}と求められますが,今回は弾性力学に対応させて解いていきます.

1次元のみしか考えないため 微小要素の釣り合いを考えた平衡方程式は

 \frac{\partial σ_x}{\partial x}+ X = 0

となり,X=0として積分してσ_x=CCは定数).境界条件より端でσ_{x (\rm x =L)}=\frac{F}{A}なのでC=\frac{F}{A},すなわちσ_x=\frac{F}{A}

変位表示式は

 \epsilon_x = \frac{\partial u}{\partial x}

であり,構成方程式

 \sigma_x =E \epsilon_x

に代入して \sigma_x =E \frac{\partial u}{\partial x}.さらに\sigma_x=\frac{F}{A}を代入して \frac{F}{A} =E \frac{\partial u}{\partial x}

両辺 x積分して \frac{Fx}{A} =E  u+ DDは定数).境界条件より壁で  u_{ \rm{x =0}}=0 なのでD=0.よって  \frac{Fx}{A} =Eu. これにx=Lを代入すれば

 \delta=u_{\rm{x=L}} = \frac{FL}{AE}

と解が求まります. (どうでもいいですけど初修のときひずみ0と変位0が混同しますよね(僕だけかも).壁で変位0だからといってひずみが0というわけではないですのでご注意を.)

かなりまどろっこしい解き方ですが,ひずみは変位の偏微分,構成方程式は微小要素を考えた際の釣り合いから導かれるもの,の2点くらい知っておけば材料力学でも棒に自重が働く場合や断面積が可変などの問題で少し役立つかもしれませんね(立たない?).

続きは未定です.

文献

小林繁夫,近藤恭平 ”工学基礎講座7 弾性力学“ 培風館(1987),ISBN978-4-563-03252-4